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とらのあなに色々と委託中です。ウィルグラ再録本ウィルグラ本ベアトリクス乱交本

2016年10月6日木曜日

【合同誌サンプル】close to you (ユスグラ)

 どうしてこんなことになったのだろう。

 グランは狭く暗い穴の中にいた。
 とはいえ、穴という表現は正確ではなく、どこにも出口はない。グランは土の中にいる。廃鉱山の坑道の途中で、岩盤が崩れて閉じ込められたのだった。
 グランは暗闇の中を手探りで歩いた。三歩進んだところで壁にぶち当たる。左右も目の前も背中の後ろも、湿った土の壁が手に触れる。目は見えないが、グランが着ているクレリックの衣装はきっと濡れた泥で真っ黒になっているだろう。そのせいか、いつもより重さを感じる。

 狭い。
 暗い。
 呼吸が苦しい。

 暗闇の中で、グランの心臓が早鐘を打っている。この現状を打破できる解決法が思いつかない。
……僕はこのまま、ここで生き埋めになるのだろうか?
 閉所と暗所、それに出口のない恐怖で、寒気が心の中と全身を満たす。グランは思わず拳を振り上げて土壁に叩きつける。が、打撃音は土に吸い込まれ、当然ながらどこからも返事はない。
……どうしよう。どうしようどうしよう。
 グランがややパニックになりながら浅い呼吸を繰り返していると、男の声が聞こえた。

「グラン、落ち着け」
聞き覚えのある声だった。低く、落ち着いた声。
「ユーステス?」
「そうだ。ここにいる」
グランの頬にがさりとした感触が当たる。それがユーステスの革手袋だとすぐに分かった。生地を通して体温が伝わった。グランはその手を握る。
 目の前は全く見えないが、ユーステスはおそらくグランの前にいる。相手にはこちらが見えている、というのは、エルーン族の夜目の利く性質のおかげなのだろう。

 グランはその声に緊張がふっと緩むのを感じた。この窮地が変わるわけではないが、一人でいるよりもずっと心強かった。
「深呼吸をしろ。過呼吸になるぞ」
ゆっくりと言い聞かせる言葉がグランの上から降る。グランは言われたとおりに深呼吸をする。とはいえ、土の中では息苦しく、このままでは窒息する……そんな連想に再び恐怖が襲う。

 暗闇の中で、ぼそぼそとユーステスの声が響く。
「グラン、何か考えはあるか」
ここを脱する方法。……武器を使えば、道が開けるかもしれない。けれども、今いる空洞の天井が崩れて本当に生き埋めになるリスクのほうが大きい。それを正直に伝え、グランは己の不甲斐なさに口をへの字にする。
 ふっ、とユーステスの吐息がグランの額にかかった。その距離感にグランはどきりとした。
「お前らしくないな」

グランは目線を上に向けたが、ユーステスの姿は見えない。
 そして、次の言葉にグランは息をのんだ。

「このまま、二人で心中するか」
ユーステスの吐息は少し熱を帯びていた。

◆◇◆

 シェロカルテを通じて、山あいの村から、魔物討伐の依頼が届いたのはつい昨日のことだ。
 魔物が村を襲うことはまだないが、夜な夜な山のほうから咆吼と地鳴りが聞こえるらしい。
 そんな深刻な前情報とは裏腹に、村はハロウィンの準備で賑わっていた。
 三角形の目をして笑ったかぼちゃのランタンが道ばたに並び、紙や布で作られた鮮やかな飾りが家の軒先を彩り、町の中心部には魔女やお化けの人形が飾られている。

 ルリアは初めて見るハロウィンのお祭りに目を輝かせ、グランもお祭りの喧噪に気分が高まるのを感じていた。
 やがて夜のとばりが降り、グラン達は村中を灯すランタンの明かりに包まれた。
 幻想的な夜景を眺め、楽しんでいた一同だったが。

 突如、ズシン、と地が震えた。町並みが揺れ、村人から悲鳴があがる。
 きゃっ、という声をあげてルリアがよろめき、グランはその華奢な身体を抱きとめた。
 続いて、山の方角から風に乗って大きな唸り声が届く。
 地面だけではなく、空気をもビリビリと震わす威力だった。
 その叫び声は生物にとって本能的に恐怖を抱かせるような圧迫感を持ち、村人のほとんどは耳を塞ぎ、震え上がって膝をつく。

 地鳴りは地震かと思ったが、これは魔物の仕業だと村長は言った。この振動は常に咆吼と一緒に村に伝わるのだと。
 ただ、魔物にしては規模が大きすぎる。グランはある確信を抱いて、ルリアを見る。天変地異を起こすほどの魔物がいるとは思えない。ルリアはハッとした顔をしていて、真面目な顔でグランに向き直った。

「グラン。山のほうから星晶獣の気配がします」
やっぱり、とグランはルリアを見返した。

 それであれば、事態は変わってくる。
 グランは星晶獣と戦うのに適した編成を組むと、問題の山、廃鉱山の廃坑へと足を踏み入れた。
 数十年前に閉鎖された、という鉱山の坑道は、地を這うトロッコの線路が黄色く変色し、錆びた赤い地下水が染み出していて足下がぬかるんでいた。

 先頭を歩こうとしたグランの代わりに、自称グランの影である暗殺者の少年・ジャミルがほぼ強引にランタンを持って歩く。
 その明かりに照らされて、岩壁に組み込まれた黒い木の梁が延々と奥へと続いている姿が浮かび上がる。
「可愛い女の子にこんなところを歩かせるなんてぇ」
ブーツが泥にまみれるのを気にしながら、千歳を超える錬金術師の美少女・カリオストロが不満げに言う。
 サンダルを履いた幼女のサラは、既に足下がびしょ濡れになっていて、それでも文句は言わずに、不安げに暗い坑道の中を歩く。ルリアも同様だ。
 少女三人(というには一人はふさわしくないが)を護るように、長身痩躯のユーステスが前方に、全身をいかつい甲冑で包んだジークフリートが後方に配置され、後へと続く。

 ふと、風が凪いでグランの頬を掠めた。
 戻り道以外に出口のない洞窟の中では、風が吹くはずもない。先頭のジャミルが足を止めた。
 風は生ぬるく、独特の異臭がした。
 毒ガスの類いではありません、と、毒に詳しいジャミルが呟く。
 グランは頷いた。もっと、生物が放つような独特の腐臭だった。

 何かが、居る。

 突如、轟音が鳴り響いた。

 それは狭い坑道の中で反響し、岩盤が崩れんばかりに周囲を揺るがし、一同はよろめく。村で体験したのと同じ地鳴りと咆吼だった。サラが小さく悲鳴をあげて耳を塞いだ。
「星晶獣の気配が濃くなってます。おそらく、この先に」
ルリアがそう言いかけ。

 途中でその言葉はかき消えた。
 咆吼とは違う、巨大な唸りと衝撃が坑道を包む。
 大音量が左右と天井から響き、岩盤が崩れ落ちた。
 そして、土砂が圧倒的な物量を持つ土の濁流と化して通路になだれ込む。
 あっという間にグラン達は飲み込まれ、視界は完全な暗闇に包まれた。



[同人誌に続く]>>