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2016年6月8日水曜日

ふたつこころ【オネイロス】

【※注意】青年誌程度のグロシーンがあります。
イベント「リペイント・ザ・メモリー」ネタです。


 悪夢を見て、僕は飛び起きた。全身が汗だくだった。暗い部屋の中で僕の心臓の音がドクドクと響いている。
「夢、かぁ……」
安堵を込めてそう呟くと、隣で寝ていた恋人のグランが目を開けた。目をこすりながら僕を見上げる。
「ウィル、どうしたの? ……人を殺したときの夢でも見た?」
「僕は人は殺していないよ。殺したのは豚だけさぁ」
いや、豚に失礼だったね。欲にまみれた肉塊、これだ。
 僕は溜め息をついた。思い出すのもゾッとする。
「ああ……魔物がたくさん……あんな……」
「大丈夫だよ、夢だから」
グランが上体を起こして僕の背中をさする。なんだかあやされているみたいだ。
「ありがとう」
僕はしばらくそうしてもらって、落ち着いた頃に再び寝直した。


 僕はまた夢を見ていた。
「グラン。キミに、ふたつこころが無いことを祈るよ」
「ふたつこころって何さ?」
「裏切りとか浮気とか、そういう考えのことさ」
「ウィルは僕が浮気すると思ってるの? 馬鹿だなあ、そんなことするわけないだろ」
困惑した表情でグランは言い、僕達は口付けをして深く愛し合った。
 それなのに。
 今はただ、その日々が遠く思える。


「グランが最近ボーッとし過ぎではないか。貴様は一体何をしているのだ」
僕は彼を見た。華美な赤い鎧に包まれた男、炎帝パーシヴァル。
 グランを右腕にして建国しようとしている人物だ。グランと彼はお互いに信頼を寄せ合っている。
 僕は会話をしたくなくて、わざと彼の嫌がりそうなことを言う。
「嫌だなあ。僕はグランの排泄管理から射精管理までバッチリさあ」
パーシヴァルは端正な顔の眉間に皺を寄せて侮蔑の表情を浮かべる。
 貴族のお坊ちゃまには下品な言葉だったろう。
 僕はその場を後にして、団長室に戻る。
「ウィルぅ」
グランがぱぁっと顔を輝かせて、主人を見付けた犬のように僕に抱きつく。そのままグランは僕の聖服の裾を捲り上げると、顔を涎でべとべとにしながら股間に頬ずりをする。
「おやおや、いやしい団長様だ」
グランと恋仲になってから一年ほど経つが、僕が調教しすぎて、グランはすっかりおかしくなってしまった。僕の前では色情狂だし、僕以外の前では大人しくするように言った命令には忠実だったが、常にボーッとしている。これでは帝国軍の追っ手をかわすどころではないし、イスタルシアにもたどり着けそうにない。
 ただ、僕はそれでもいいと思っていた。
 グランの父親。
 まだ幼いグランを置いて旅立ったくせに、今度は自分の所に呼びつけるだなんてロクな親じゃない。
 グランは僕が一生飼う。
 そのために、僕は準備をしてきた。
 グランと同じ背格好の子供を殺して、グランの服を着せて、顔を潰した。
 これでグランは死んだことになった。団員達はみんな悲しみ、泣いて、喪に服した。
 あとは荷物に紛れ込ませたグランと一緒に船を降りるだけだ。
 そこで、棺桶に収められたグランの偽物の死体を黙って見ていたパーシヴァルが、その服を剥いだ。
「背中にほくろがない。これはグランじゃない」
ああ。
 僕は心身が冷えるの分かった。
 そこにほくろがあることなんて、僕がよく知ってる。
 まさか。
 グラン、キミは。
 パーシヴァルが剣を構えて僕に向き直る。
「こいつの部屋を探せ。グランがいるはずだ」
僕は団員達に押さえつけられ、自室のトランクの中に隠していたグランが引きずり出される。グランはきょとんとした顔で辺りを見る。
「ウィル、ここは? 船を降りるんじゃなかったの?」
団員の間に動揺が広がる。安堵と憤怒が入り交じった空気。騙したな、という怒声が次々に飛び交い、場は段々と熱くなっていく。
 団員達の殺意が僕に向かう。
 僕はその場で、罪もない子供の死体と同じように拳と鈍器で顔を潰され、銃と剣で身体に穴を開けられ、弓矢でハリネズミにされ、治癒魔法で回復させられては何度も殺された。
「……安らかに眠れ」
パーシヴァルが身代わりの子供の死体の頬に手をやり、苦しそうな顔をした。
 グランの叫ぶ声が聞こえる。
 グランの泣き声を聞きながら、僕は何度も意識を失っては目を覚まして体中をグチャグチャにされた。
 どこまでが夢か現実か分からない、いつ終わるのかも分からない、激痛の中で僕は、身体の痛みよりも、グランが僕を裏切った、その事実にショックを受けていた。
 虐殺はまだ終わらない。


 ある日の僕は、鼻歌を歌いながら人間の死体の血抜きをしていた。
 頸動脈に切れ込みを入れて逆さに吊す。通常、肉を斬り続けていると、脂で刃物は切れが悪くなる。僕は自分で調合した薬品を仕込み杖(ザ・クロス)に塗ってそれを防いでいた。
 ざくり、ざくりと手早く四肢をバラバラにして解体し、内臓も全て抜き出して血抜きを促す。肛門に詰まった糞尿も全て掻きだして綺麗にする。殺したての死体からは赤味がどんどん抜け、白く透き通るような肌と化していく。剥製にするのにとても良い具合だ。
 ずっと彼を綺麗な標本にすることを夢見ていた。その願いが遂に叶う。
 香炉にハーブを焚いて血の匂いを消し、僕は大袋に死体を詰めると、グランサイファー号の風呂場の鍵を開けて外に出る。
 僕はうーんと伸びをする。
 甲板を出ると夜風が気持ち良かった。
 船を降りようとして、ひとりの長身のエルーンの男が行く手に佇んでいるのに気付く。それが誰かはよく知っている。ここ最近、ずっとグランが彼にご執心だったから。
「やあ、こんばんは」
何事も無かったかのように横を通り過ぎようとしたけれど、彼、ユーステスは鋭く冷たい瞳で僕を見た。
「血の匂いがするな」
「そうかい?」
おやおや。僕としたことが、エルーンの嗅覚のことをすっかり失念していたようだ。
 彼は腰の革ベルトに下げたホルスターから小銃を引き抜く。
 気が早いね。
 その様子だと、僕が誰に何をしたかはもう知ってるみたいだ。
 僕は大切な荷物を床の上に置くと、仕込み杖から長剣を引き抜いた。
 銃と剣。
 銃のほうが有利なのは明らかだ。
 ただ、踏んだ場数が違う。
 弾丸なんて、当たる急所さえ外せば相手の命は獲れる。
 僕は躊躇わずに彼に突っ込む。
 辺りの空気を震わせるほどに大きな銃声が響いた。
 僕は頭部から胸にかけてを刀身で庇うように構えていた。もし急所を狙って撃ったとしても、これで弾き返す。一発目を避ければ、あとは彼の頸動脈を切って終わりだ。
 そのはずだった。
 が。
 ユーステスの弾は僕の長剣をまっぷたつに折り、文字通り僕の胸に風穴を開けた。通常の銃ではあり得ない破壊力だった。 
 そこで僕は気付いた。
 彼の銃が一番威力を発揮する、レベル5。そこまで充填されていたことに。
 それは威力と引き替えにかなりの時間を要する。けれども、彼は既にその状態で僕を待ってたということだ。
 なんだ。
 完全に僕の負けかぁ。
 僕の身体からは大量の血が溢れ出し、急速に体温が失われていく。
 僕は床を這い、大袋に手を伸ばす。
 その手首が吹き飛んだ。切断された動脈から血が噴き出し、僕の目の前に赤い霧がぱぁっと舞う。
 ユーステスの次の弾丸だった。
 普段と同じポーカーフェイスの彼の目に、怒りの炎が揺らめく。
 そうか。
 キミは怒ってるんだね。
 死を目の前にして、僕は思わず笑いそうになった。
 ユーステスはカツカツとブーツの底を鳴らして僕の傍まで来ると、死体袋を開け、金色の目を見開く。そして、悲しそうに目を伏せると、袋を抱きかかえた。
 キミ、そんな顔ができたんだ。
 僕は意外に思った。
「……グランは、俺が弔う」
やめてくれよ。キミに死体は愛せない。
 グランの心を奪ったのだから、肉体は僕にくれたっていいじゃないか。
 僕が不満を口にしようとすると、ユーステスは銃を構え、今度は僕の頭を吹き飛ばした。


「……ル……ウィル……」
僕は目を開けた。
 目の前にはグランがいた。心配そうに僕を見ている。
 おやおや。
 そんな顔を見るのは、随分と久々じゃないかな。キミはずっとユーステスばかり見ていたからね。いや、パーシヴァルだったかな。
「オネイロスを倒したんだ。もう大丈夫だよ」
何だい、それは?
 僕は自分が死んだことを思い出す。
 そうか、ここは天国なのかな。
 だからグランが傍にいるのかな。僕が殺したんだものね。
 良かった。グランは永久に僕のものだ。
「まだ醒めない?」
グランは母親が子供を諭すように、僕を抱き締めた。
 その心音と体温を味わい、次第に僕の意識は現実に目覚めていく。
「……夢を見たんだよ」
「分かってる」
「辛い夢だったよ」
「知ってるよ、ウィル」
「それでさ」
「うん?」
「僕を慰めてくれるかい?」
「……調子に乗らないでよ!」
僕はかるくグランに頭を叩かれた。
 ああ、現実に戻ってきたのか。
 僕は不思議な喪失感に襲われていた。
 グランを僕の物にしようとしたあれやこれが、全てまぼろしだったのだ。それはとても残念なことに思えてしまい、僕はその考えを振り払う。
 大丈夫だ、今はグランは僕のそばにいる。

……壊れたグランが頭に浮かぶ。
……グランの代わりの、子供の死体。
……次に、グランの綺麗な剥製が。
 僕の背筋がぞくりと粟立つ。
……あれは、良い案だったのではないだろうか。
……僕は……。
……グラン。
……いつ心変わりするか分からないなら、もう壊してしまったほうが……。
……生身よりも、いつまでも変わらぬ美しい姿で居たほうが……。

あどけない声が、僕の意識をまた現実に引き戻す。
「もう、しょうがないな。今日だけ特別だよ?」
慰め代わりにキスをしてきたグランに手をまわす。僕は腕の中にいる本物を確かめるようにグランを抱いた。


 あれから僕は漠然とした悪い夢に、まだ囚われ続けている。