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とらのあなに色々と委託中です。ウィルグラ再録本ウィルグラ本ベアトリクス乱交本

2016年2月23日火曜日

前略、幼馴染の汚部屋より

 ある国の領主を警護する、というシェロの依頼を終え、ヴェインは三日ぶりにグランサイファー号に戻った。
 自室に帰って、まず泊まりに使った分の衣類を洗濯用のカゴに放り込んで、荷物を片付ける。その後にすることは決まっていた。
 隣の部屋に突撃してドアを開ける。

「ランちゃーん、ただいま

果たして部屋の主はベッドの上で寝ていた。
 だるそうに腕を目の上に当ててヴェインを見、枕の横に置いている時計を見る。

「まだ早いぞ……」

不機嫌そうな声でランスロットは呟いた。
 何しろ、ヴェインがあちらを出たのは夜で、こちらについたのは早朝。それも、まだ空が明けきっていない時刻だ。

「俺は寝るぞ」

そう言った直後には、規則正しい寝息をたてながらランスロットは寝た。気の置けない間柄だ、同じ部屋にいても安心してよく眠れる。

「三日ぶりなのにつれないなー」

そして、ヴェインは部屋の中を見回す。
 本と衣類とゴミが散らかった汚部屋だ。
 おかしい。
 ここを出る前には綺麗に片付けたのに、もう汚い。

「なんで三日でこんなに散らかってんだ!?

ヴェインはツッコミを入れるが、部屋の主は寝たままだ。
 むう、とヴェインはしばらく考えて、わざとらしく明るい声で言った。

「うわー 片付いているところ発見 ここだけ綺麗だぞー
ヴェインはランスロットのベッドに乗り込む。
 二人分の重さで、ベッドがぎしりと音を立てた。

「……ヴェイン、俺は寝たいんだが」

やはり不機嫌そうな声でランスロットは目を閉じたまま言う。
 ヴェインはランスロットが構ってくれないのを察し、ボリボリと頭を掻くと、ベッドから降りた。
「……しょーがねーな、片付けすっか」

呆れた口調だったが、ヴェインは笑顔だった。期待通りの出来栄え。幼馴染の期待の裏切らなさ、部屋の汚さに思わず笑ってしまう。
 三日で汚部屋になるのは目に見えていた。
 なんて片付けがいのある部屋だろう。

 一時間ほど片付けていると、ランスロットがぱちりと目を開けた。
 ランスロットの目に飛び込んできたのは、生き生きと掃除するヴェイン。

「……なんか嬉しそうだな、ヴェイン」
「そうか あっ、でも三日ぶりのランちゃんは嬉しーけどな
そして人懐っこい笑顔を浮かべる。

「それにしても……さっきから思ってたんだけどさ」
「何だ
ヴェインはソワソワした様子で言った。
「この部屋、なんかランちゃんの匂いが濃いぜ
「は
そんな馬鹿な、犬みたいなことを……と思って、ヴェインはパーシバルに「駄犬」と呼ばれていることをふと思い出す。
 が、そんなことは今は関係ない。

「何言ってるんだ 俺の匂い
「うん。何か……クラクラするぜ」
ランスロットは部屋の中を見回す。その様子は心なしか焦っているようにヴェインには見えた。

「……ゴミの匂いじゃないか
「なお悪いと思うぜ、それ……」
ヴェインは呆れたように言い、言葉を続けた。

「じゃあ、試してみようか
ヴェインは再び、ランスロットのベッドに上がる。
 そして、ランスロットの隣に横になって、ランスロットの首筋あたりに鼻先を寄せる。
「ほら、やっぱりランちゃんの匂いだよ」
「やめろ、犬じゃあるまいし」

ランスロットは正面にいるヴェインと視線を絡める。
「ワンワンワンッ
ヴェインがいい笑顔で、冗談めかして吠えた。

「馬鹿か」

ランスロットは思わず頬を緩め、慣れた様子でその金髪の頭をワシャワシャと撫でる。主人が犬を撫でるように。
 ランスロットはようやく上体を起こした。
 ヴェインも起きてベッドに腰掛ける。

「洗濯物を溜めてるせいかと思ったんだけど、なんか違うみたいだ」
ヴェインは洗濯カゴにまとめた衣類を指差す。

「俺の匂いなんてどうでもいいだろう」
「うん……まあ、部屋が汚いせいもあるかもだし」
「あんまり汚い汚い言うな」
「だって、汚いんだもーん」

そして、ニヤリと笑った。
「俺、ランちゃんのお嫁さんになっちゃおうかな」

「え
ランスロットは少々緊張の面持ちでヴェインを見た。ヴェインは屈託のない笑顔を向ける。

「なんてね 冗談冗談
「そうか」
拍子抜けした声がランスロットの口から漏れた。

 ヴェインはベッドから降り、足元に何かが落ちているのに気づいた。
 ベッドの下から半分姿を覗かせているそれは、キノコが生えた固い何か。よく見ると、変色したパンの一部だった。

「んっ

慌ててそれを手に取り、もう一つのゴミがベッドの下にあるのを見つける。
 それはカビの生えたチーズだった。

「ちょっ、何これ!? 三日前はなかったのに」

とはいえ、明らかに三日でここまで変化するものでもない。
 ランスロットが口を開いた。

「そういや、俺とヴェインの歓迎会の時に、ロゼッタに部屋で食べてねって残り物を渡されたな」
「歓迎会 半年前からあったってことー!?

 おそらく、ベッドの下に転げていて、今まで気づかなかったのだろう。

「ダメだろ、食べ物粗末にしちゃ
ランスロットはそっと目をそらして言った。

「いや、カビの生えたチーズは、そういう食べ物が異国にあるというし、食えるんじゃないか キノコはローアインに料理して貰えば」

ランスロットが料理上手な団員の名を挙げると、ヴェインが真面目な顔で言った。
「んなわけないだろ ちょっと、こっち見てよランちゃん

ランスロットは一度、ヴェインと目を合わせ、またそらした。
「なんで目そらすの 悪いことした犬みたいじゃん」

ランスロットは犬がそういう性質があるとは知らなかったので、素直にほう、と嘆息した。
 ランスロットがもう一度ヴェインを見ると、ヴェインは笑いをこらえていた。

「何がおかしい
「今のランちゃん、すげー可愛かった」
そして、ゲラゲラと笑いこける。

「んなっ……!?
ランスロットが抗議の声を上げたそのとき、グラリと地面が動いた。

「うわっ」
隣の部屋からは女の子の悲鳴が聞こえた。船が揺れてるようだ。
 ヴェインはバランスを崩して、ランスロットの上に覆いかぶさる。それも股間に顔を埋める形で。

「あー、わ、悪ぃ」
慌ててヴェインは跳ねるように飛び起きる。
 そして気まずそうな顔をした。

「な、何か、ごめん」
「いやその、寝起きのせいだ」
「だ、だよな」

何となく気まずい空気が流れる中、船内に放送が流れた。

 グランサイファー号には各部屋と操舵室をつなぐ金属の管が通されている。そこから指令を出すことができるのだ。
 管からはノアの声がした。
「朝からごめんね。これから雷雲の中を通るので揺れるよ。甲板に出てる人は早く部屋に入ってね」
ノアの声の後ろでは、ラカムがいろいろ指示を出しているのが聞こえる。
 二人は顔を見合わせた。

「それじゃ、俺、部屋に戻る、ぜ……ッ!?

そう言って立ち上がろうとしたヴェインの語尾が驚いた声に変わる。そのまま床に尻餅をついた。

「……あっ」

今度はランスロットがベッドの上から落ちてヴェインの上に覆いかぶさる。

ランスロットは飛び起きた。

「すまない」
「いや、これでお互い様ってことで……」
「今動くともっと危なそうだな」
「俺、揺れが収まるまでここにいようかな」
ヴェインは座ったまま片付けを始める。
 それを見て、ランスロットも床に座って手伝い始めた。

「まず分別をしよう。ランちゃんは服をまとめて。あとで洗濯に出すから」
そして、ヴェインは腐海の下から変色した本を見つける。
 コーヒーをこぼしてそのままにしたらしく、焦茶色のシミが表紙とページにできている。表紙の文字のインクが完全に溶けてしまっていて、何の本か分からない。
 ヴェインが中を確かめようとしたが、ページがとページがくっついていて離れない。
「ランちゃん……本に飲み物をこぼしたらすぐ拭かないと」
「すまん」

辛うじてページのめくれる部分を探して中を見ると、それは政治の本だった。
「ランちゃんは勉強屋だなあ。高い本だろうにもったいない」
「いや、その本はそこまで高くない」
「あ、こんなに汚れてても何の本か分かるんだ
ヴェインが茶化す口調でランスロットに言う。
「バルツ公国の本だ」
「そうなのか」

ヴェインは掃除を再開する。ランスロットは衣類をまとめ始めた。
「おっかしーな、ランちゃん、昔はここまでじゃなかったよな
「そうか
「俺が覚えてるのは十歳くらいのときかなあ。あそこから段々ランちゃんがおかしくなってきて」
「おかしいとは何だ」
真顔でランスロットが訊(たず)ねる。
「ランちゃんの鉛筆が筆入れから毎日無くなんの。不思議だったなー」
「そうだったか
「そうだよ、俺、よくランちゃんに鉛筆貸してたもん」
「記憶にないな」

そして、ヴェインはいつもの笑顔で笑う。
「でもな、ランちゃんは本だけはきちんと管理できてた。図書館の本はなくさないし、買った本も大事にしてたぜ」
そして、手元のコーヒーの溢れた本を手に取る。

「大事にしてた……はずなんだけど」

本に気の毒そうな目線を向けると、ランスロットが「あ」と声を上げた。
 その手には、ヴェインが手にしてるのと同じ表紙の本があった。そちらは表紙も中身も綺麗で、しおりも挟んである。ちゃんと読んでいる本らしい。

「同じ本が二冊
ヴェインが驚く。

「何で コーヒー溢したから新しいの買ったの
「あ、いや……持ってる本を忘れるときがあって」
「それで二冊買ったんだ」
「そういうことだ。ヴェインもたまにはあるだろう
「ないな」

あっさり答えるヴェインに、ランスロットは少しうろたえる。

「でも、ランちゃん昔から同じ装備を二個買っちゃったりしてたもんなー。部屋が汚いからだぜ」
「……う、うるさいな」

 二人はそんな会話をしつつ、乱気流で揺れる部屋の中で掃除をした。
 結局、同じ本は三冊出てきた。

 ランスロットは「お前にやる」とそれを押し付け、ヴェインは読みもしない小難しい本を持って帰ることになった。

 ヴェインかふと、急に真面目な顔になってランスロットに言った。
「ランちゃん、あのな」
「何だ

「今、俺、何か気持ち悪い……」
ヴェインは軽く口元を抑える。

 その仕草にランスロットは蟹漁船の事件を思い出す。
「船酔いか
「うー、そうみたい」
「横になるか
「ああ。ベッド借りるよ」
ヴェインは本当に具合が悪そうにベッドの上に横になった。

「やっぱさ、ここランちゃんの匂いがするぜ」
ランスロットはヴェインの枕元に寄って言う。
「追い出すぞ」
「いや、この匂い、なんか落ち着くからいいよ」
「何言ってんだ」

そこで、ランスロットは怪訝な顔をする。

「何か……お前も今日、匂いがしないか
「あー、泊まり仕事で二日は風呂に入ってねーから」

ランスロットは顔をしかめた。

「今すぐベッドから降りろ」
「やだー

そんな掛け合いをしながら、やがて飛空艇が乱気流から抜け出すと、具合のよくなったヴェインは自室へと帰った。


 ヴェインの部屋には本棚がない。簡易的な壁棚にランスロットからもらった本を収納する。
 全く読まないが、ランスロットがくれた物だ。
 それは『単なる本』ではなく、『ランちゃんにもらった本』として、ヴェインの部屋に置かれることとなった。